生物学的年齢の評価と治療

〜老いと正しく向き合う〜

アンチエイジングはBiological Age(生物学的年齢)で評価する時代へ

「病気」よりも「老い」こそが根本的な課題

「病気」よりも「老い」こそが根本的な課題

仏教の根本命題は「生老病死」の解決にあります。1つ目の「生きる苦しみ」は人間にストレスを与えますが、逆境をバネに向上することも可能で、人生観を変えることで対処できます。

生きる苦しみ以降の「老いる苦しみ、病む苦しみ、死ぬ苦しみ」は基本的には老化つまり「老い」から生じています。50歳までは多くの人は病気知らずですから、病(やまい)や死を考える機会は少ないものです。

しかし、50歳を過ぎる頃から「老い」が始まり、それに比例して生命力・免疫力・抵抗力などの低下によって必然的に「病(やまい)」の苦しみが伴ってきます。「死」はそれらの帰結です。

つまり、老いることも病むこともなければ、人は何百歳も生きてしまいます。つまり病気よりも「老い」ということがより根本的な課題と言えます。

旧約聖書には太古の人類は何百歳も生きたという話が出て来ます。その真偽のほどはともかく、老化現象がなく、常に細胞がrenewal(リニューアル)され続けていけば、老いる理由はなくなります。

そして必然的に病むことも死ぬこともなくなります。しかし、諸行無常はこの世の必然ですので、いつかは死がやって来ることは避けられません。現在の日本が超高齢化社会を迎えるにあたり、「老い」という一見ありふれた問題に改めて向き合う必要があると言えます。

アンチエイジングはBiological Age
(生物学的年齢)で評価する時代へ

昨今、「アンチエイジング」「リバースエイジ」をうたい、様々な医療、美容、サプリメントのサービスが展開されています。

しかし、実際にそれらの効果をリアルタイムで客観的に評価する指標は日本では確立されておらず、「何を指標にするか」はとても重要な点です。アンチエイジングの中でよく注目されるのが見た目(整容性)の年齢です。

かくいう私も美容医療に日常的に関わっており、同じ年齢の方でも個体差が様々なのは目の当たりにしています。しかし、整容面はアンチエイジングの片鱗に過ぎず、真の目的は健康寿命の延長にあります。すなわち、「目がパッチリしている」「鼻が高い」などはあくまで個性でしかなく、アンチエイジングはその人らしいオーラを保ちつつ活きいきと若々しく見えることが大切なのです。

20世紀以降、人類は未曾有の高齢化社会へと突入し、2007年生まれの日本人の半数は107歳まで生きるとの予測もあります。この超高齢化社会において、誕生からの経過日数より求められる暦年齢はよりもむしろ、組織・細胞の老化の程度から求められる生物学的年齢(Biological Age)が重要なのです。

Biological Age(生物学的年齢)とは

BAの評価方法ですが、様々な研究によりDNAメチル化レベルと強い相関性があることが解明されました。

DNAのメチル化とは各遺伝子の始まりの部分の塩基にメチル基(-CH3)が付加され、その遺伝子がoffになることです。遺伝子配列とは別の後天的な変化「エピジェネティクス(epigenetics)」で、同じ遺伝子を持つ一卵性双生児でも異なる病気になったり、見た目が変わるのはこのためです。

生まれてからの時間におおむね比例してDNAのメチル化が進行し、2〜3万ある遺伝子が徐々にoffになってゆき、細胞レベルで老化してゆきます。Biological Ageを加速させる因子として、肥満、糖尿病、高脂血症、喫煙などがあります。これらは日頃の生活習慣の工夫で予防することができます。

テロメアとBiological Ageの関係

人の体は平均すると約37兆個の細胞で出来ており、その中の約1%である2000億個の細胞が毎日死んで、それと同時に細胞分裂により新しい細胞が生まれています。

その際、人体の設計図である染色体が重要であり、その両端の部分にくっついているのがテロメアです。

テロメアは細胞分裂を繰り返す毎に少しずつ短くなり、最後には分裂できなくなり、細胞は死んでしまいます。すなわち、Biological Ageにはテロメアという塩基配列も関わっているのです。

サーチュイン遺伝子とBiological Ageの関係

細胞の中にはリボソームというタンパク質を合成する器官があります。このリボソームを作る遺伝子の情報を調節しているのがサーチュイン遺伝子です。別名、長寿遺伝子とも呼ばれ、普段は眠っているのですが、一度働きだすとミトコンドリアの酸化ストレスを軽減させたり、炎症を抑制させたりするなど、アンチエイジングに大きく貢献します。

Biological Ageを若返らせるにはどうしたら良いのか?

欧米のアンチエイジングの研究で一致している見解は、カロリー制限により細胞内のオートファジー(自食作用)を活性化させ、個々の細胞をrenewal(リニューアル)させていくことです。オートファジーを活性化させる代表的な方法として、

①炭水化物の摂取量を減らす

②ニコチンアミドモノクレオチド(通称NMN)

③mTOR阻害薬(分指標的薬)

④メトホルミン

⑤SGLT2阻害薬

などが有効である可能性があります。

セルフケアでできること

セルフケアでできること

セルフケアとして①は誰でも実践できます。そこで注意すべき点は、糖質制限≠空腹ということです。タンバク質である肉や魚や鳥、また畑の蛋白質である大豆や納豆、豆腐、ナッツなどは炭水化物をほとんど含まないため、摂取制限は不要です。

これは野菜や海藻、卵、牛乳、チーズ、ヨーグルトなどでも同じで、摂取量の制限が不要な食物も沢山ありますので、十分な満腹感を感じながら糖質制限が出来ます。

特に、炭水化物は摂れば摂るほど空腹感が増しますが、蛋白質は摂れば摂るほど満腹感を感じるものです。そのため、十分に食事を楽しみながら、炭水化物の摂取量の制限をすることが出来ます。炭水化物の制限で体に必要なエネルギーの70%位の摂取に抑えて軽い飢餓状態にしたり、軽めのウォーキングなどの運動により、サーチュイン遺伝子は活性化され老化のスピードが抑えられると報告されています。

逆に、内臓脂肪が蓄積するとサーチュイン遺伝子の活性が低下するため、飽食やメタボリックシンドローム(肥満)は老化を加速させる要因となります。

そして、アンチエイジングに一番重要なことは、

①食事のカロリー制限

②適度な運動

③良眠&ストレス処理

の3つです。アンチエイジングに高額な費用をかける前に、最も身近にあり、一番重要な生活習慣を見直してみましょう。

当院での取り組み

当院では各患者様の生物学的年齢(Biological Age)や栄養評価を基に、生活習慣から医療までのトータル・アンチエイジングをサポートしています。

具体的には、問診、皮膚年齢の評価、血液検査による栄養評価、DNAメチル化などを通じて、患者さんの希望に合わせて生活習慣(食事、睡眠、運動)、サプリメント、点滴、再生医療、レーザー、外科的手術などを提案しております。お気軽にご相談ください。